未草の小林夫婦と温石の須藤夫婦が出会った時、同じ方向を向いている同士に出会えたような感動があったのだという。
それは自分たちの暮らしに根ざした発信をすること。その暮らしが住む大地と自然に根ざしたものであること。
小さな頃から「大草原の小さな家」に憧れて森のある場所に住みたいと願ってきた田所真理子さんは、小林夫婦が住むことを決めた長野県の黒姫の土地に降り立った時に、ああ、私も住みたい。
そう感じたそうだ。
黒姫の森は、自然愛好家で小説家のC・W・ニコル氏を世界でも最も豊かな森といわしめた森。豪雪地帯で冬には平均して1.5mもの雪が積もる。その代わり人が簡単に住めないその土地には美しい原始の森が残っているのだ。
小林夫婦は住処を探して旅を続けその土地出会った。
初めて降り立った時に、そこに広がる景色を目の前にした時、ただただ立ち止まり言葉を失った。長い長い沈黙の後、「ここだね・・・」と互いに手を取り合って帰途に着いたという。
それから6年をかけて彼らはその土地を開墾した。経済的な余裕がなかったので、最初は手のこで雑木を切り倒し、手で石や岩を人力のみで動かした。その姿を見て手助けをしてくれる人々、初めて買った電動ノコギリ、冬に創作活動を行い夏に黒姫の土地の開墾をする日々。
そんな時に須藤夫婦と出会いたちまちこの二組の夫婦は共感しあった。そしてこれから一緒に何かできることはないだろうかと考えた。
森が好きで、自分もそこに住みたい、そう願った田所真理子さんは夫の須藤さんや小林夫婦と語り合い、黒姫へ移り住もうというこの夫婦のことを物語にして小さな本を作ることにした。
イネ科の植物禾本が広がるその丘から物語には「禾本の丘」とタイトルをつけた。
小林夫婦がその土地に出会い、手を使って開墾し、愛するその土地に敬意を込めて「私たちをこの土地に住ませてくださいと祈り、そしていつかそこへ家を建てて暮らしの基盤に根を下ろす。その道程をこれからも追っていこう、続きを書いて行こう、そう決めてこの小さな本は生まれた。
未草の小林夫婦は、とても愛に溢れた人だとつくづく感じる。
未熟だけれども、それを克服して前へ進みたい、自分の信じた道を歩きたい、そう願う。その道は彼らの理想の暮らしにつながっている。つながっているのだけれど、その道程すべてが美しい。進む道その道程に起こること全てが意味を与え、彼らは時につまずき、何故を感じて立ち止まり、そこから宝物を得て、また進む。
なんとも回りくどく難儀な道を選ぶのだろう?自分たちでもおかしく思うことがあるのです。そう二人で笑う。
不器用さがにじみ出ている二人は、とても真摯で誠実だ。そして私は、心ある人は冒険を恐れないこと、痛みに立ち止まる勇気のある人は愛に溢れた人であること。そこから目には見えない財宝を得ることを信じたい。
そんな二人と、彼らと友情を結び、ともにに得たものを発信して行こうと深く決意した須藤家の、その二組の夫婦の歩む道がすでに豊かなものであることを感じて、これからも見届けよう。
昨夜は闇に染まった白い天井を見上げながら、静かにそう決意したのでした。
禾本の丘の原画も、小さな絵本もShoka:にあります。彼らの世界観を表現したこの企画展「森へ」。その空気に触れにぜひいらしてください。
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