コルシカ島の小さな家

                        

田原あゆみ エッセイ

コルシカ島の小さな石の家に滞在した。

中世の頃に建てられたそのままの外観を生かして、友人のアレクサさんがこの島ならではの暮らしを楽しめるように少しだけ手を入れている。

電気と水道あり。インターネットと固定電話は無し。

 

田原あゆみ エッセイ

白い漆喰と、木で作られた内部は一体何年くらい前に誰の手で作られたのだろう。

中世というからには、数百年が経っているのは明らかだ。

一体どんな家族たちがここで暮らしたのだろうか。

 

古くて柔らかくて自然な歪みのあるこの階段を、一体どのような格好をして登っていたのだろうか。

当時の服は全部が天然素材の天然染め。

家族の中の誰かが仕立てた服を着ていたに違いない。

本人たちは全く気がつかなかったかもしれない日常の景色は、きっととても美しかっただろうと思う。

地元で採れた収穫したばかりの新鮮な野菜や、天然の塩や酵母や麹で発酵させたハムやソーセージ。コルシカ島の海から獲れる魚介類。

白いリネンのスカートやシャツに陽射しが落ちて、階段を降りるときに空気を孕んでひるがえたスカートの裾を照らしただろう。

化粧っ気のない桃色の頬に朝日が当たり、逆光がその産毛を照らしたのを誰かが愛おしく見ていたかもしれない。

もちろん喧嘩もしただろうなあ。悩んだり、収穫したり、誰かが病気になったかもしれない。

様々な人々の人生をこの家が包み込んでいたのだろう。

 

 

田原あゆみ エッセイ

この窓はガラスをはめ込んでいるだけの開かない光取りの窓。

何人もの家族がここでガラスにおでこをぶつけたそうで、アレクサさんはさりげないオブジェを作ってここに下げた。

それからは誰もここでおでこをぶつけない。

そんな優しいお話も、きっと次の世代には伝わらないかもしれないけれど、この家の持っている雰囲気にもう一つ火が灯って明るくなるだろう。温もりは増すだろう。

古い家の中にいると、様々なストーリーが浮かんできて何もしていなくても飽きることがなかった。

たった2泊3日の時間の中にギュッと詰まったこの家の歴史が濃縮スパイスになって、味をつけてくれたのだ。

Paris – Melle – Côte d’Azur と友人の仕事をサポート(本当はいそがしながらも、棚ぼた式にいろんなおもてなしのおこぼれをうはうはいただきながら)をしながらの慌ただしい旅から、一気にバカンスの2日半。

それはそれはいい思い出になったのでした。

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