思い出の色

                        

田原あゆみ エッセイ

「赤い色のものをたくさん摂ってください。それがあなたの血を作るよ」

ベジタリアンだった友人が、体調を悪くした私にそう助言してくれたのは6年ほど前のこと。それは私の白い嘘だったのに、友人は心配して色々調べてくれたのだった。

ニンジン・ビーツ・紫キャベツ・トマト・かぼちゃ・パプリカ・赤唐辛子

それから赤い色の野菜を見ると、その友人のことを思い出す。

皮肉屋で気に入らないことがあると、背が高いのに、顎をちょっと上に上げて一言毒を吐くと、上から下々をしばし見下ろしてくるっと背を向け去って行く。

気に入らないことを見つけると、目をまんまるく見開いて目で相手を刺したあと、プイッとそっぽを向く。動物好き。人間よりも犬が好きなんじゃないかしら?とろけるような甘い目を向けて語りかける。

それでも、友人には間をおかずに連絡をくれて遊びに誘ったり、体調を心配して時間をかけて調べ物。その人に合った情報を贈る。そう行動で友愛を示すのだ。

 

世の中に赤いトマトはごまんとあるけれど、こんなに生き生きと情熱を感じるトマトに出会うと、その友人のことを思い出す。人だってごまんといるけれど、もう二度とその友に会うことはできない。

生き生きとした赤い野菜を見つけた時、私には様々な感覚が溢れてくる。

生命力とその不思議さを赤い色に見る。そして友のくれた心遣いと友情をふと思い出す。あんな風に堂々と自分の毒を吐いて、なお愛される友の人柄を。

それは感覚的で言葉にさえならないくらいの短い瞬間に起こること。

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