懐かしい場所

                        

田原あゆみ エッセイ

今住んでいるところから遠く離れた異国や初めて訪れたところにて、なんだか懐かしさを感じたことはないだろうか?

西フランスの田舎町Melleを訪れた時の私がそうだった。

中世の頃からの建物が当時のまま保存されたこの町の道は、全てが石畳で丘の傾覆に合わせて曲がりくねっている。その田舎道を歩いていて、友人が驚きの声をあげた。

「あゆみ、あなたおかしいよ。道に迷わないし、方向もあっている。今日1日行きたいところを地図で一見しただけで間違わないで着いているじゃないの」と。

私は大げさなやつだな、と内心思い。

「え〜〜、普段そんなにひどかったっけ?だって小さな町だし、わかりやすいじゃない。大げさだよ〜」笑って言った。O型牡羊座の私は過去をすぐに忘れてしまうのだ。

実際私はその町に1週間ほど滞在したのだが、全く道に迷わず道案内人を勤めていた。当たり前に何がどこにあるのかを知っていた。その町を離れて、違う町に移ってから異変が起きた、また道に迷い出したのだ。

その日の夕焼けを見ながら私たちはワインを飲んだ。Melleで起こったことはなんだったのだろうか、と。

「そうね、確かに滞在中ずっと懐かしさに包まれていたかも。あの石畳の景色が映像になって私の中にもある感じ。過去生があるならあの町で生きていた時代があるのかもね・・・」

人生は壮大だ。海に沈む太陽を見つめながら私は静かに感動していた。

ふと、懐かしい景色のそのほとんどが、石垣と石畳の道だということに気づいた。ずっと石畳を見ながら歩いていたに違いない、毎日毎日。

「ああ、わかった。私ねあの町で郵便配達のロバだったかも」

「・・・・なんだか腑に落ちるね」しばし無言で私の顔を見つめてから、そういうと

友人はふっとかすかに微笑んで、南フランスの海に沈む太陽を見つめた。声を出さずに笑っているのは、肩の震えでわかった。

私は、言うんじゃなかったと、やっぱり茜に染まった海を見ながら声に出さずにつぶやいた。

 

カテゴリー: rugü essay, 日々 タグ: , パーマリンク

→ ブログの記事を一覧で見る