前回の記事に掲載した、岡山から高知への旅のお話の続きです。
暮らしの中の旅日記 「人から人へ 手から手へ Gabbehの魅力」
私は車の旅が好きだ。
気分によって寄り道をしたり、見たいものを思い出すとナビに入れてそこへ向かうことが出来る自由さ。
自分で旅のハンドルを握る気ままな旅。
けれど、島国沖縄から本州へ行くと、なんと大きく広く感じることか。
岡山市から高知の香美市まで2時間半。
単調な高速道路の運転は眠気を誘う。何度か高速のパーキングエリアで息抜きをしたり、時にはちょっとだけお昼寝をして無理の無いように運転を続けた。
瀬戸大橋を越えて四国に入ったあと、高知県へ近づくほどにいくつもいくつもトンネルを抜ける。
そのあまりの多さに、高知は山の連なりで他の四国3県とは隔たれているのだということが実感出来る。
南国で高速を降りてから、更に走ること1時間ちょっと。
山道に入ってからは、ハンドルを切り損ねると落ちそうな幅の狭い山道のカーブを何度も切り抜けて、棚田が青々とうつくしい7月の谷相の村についたのでした。
2014年の3月に開催することが決まっている、陶芸家の小野哲平さんと、布作家の早川ユミさんを訪ねることが目的の小旅行。
二人のものづくりや、暮らしのリズムとその景色に触れる旅。
谷相の棚田の景色と、二人の住まいには何だかタイの北部を感じさせるような空気感があります。
夕暮れ時にやっとついた私と娘を待っていたのは、夕焼けの色に照らされた夕餉の時間。
ユミさんも哲平さんも、自分たちがタイを旅した時に多くの方から
「お腹空いていない?ご飯食べていきなさい」と声をかけられて、ご飯を食べさせてもらった経験から、
縁あってここを訪れることになった友人達へたっぷりとご飯を振る舞うのを常としているのだそうだ。
若いお弟子さんたちや友人知人が皆力を合わせて調理をし、哲平さんが作った様々な形や質感のうつわへと盛りつけていきます。
食べることとその時間が大切にされているここでの生活。
その中で生まれたうつわなんだということを、一緒に食事をいただくことで実感出来たのです。
それにしても、台所で働くみんなの姿の美しいこと。
みんなが一緒に呼吸をしているように一連の流れに乗っている。
哲平さんとユミさんの仕事とその軸になっている人間性に惹かれて、多くの人達がここへ旅してきたことがうかがえるようなぬくもりのある景色。
何度も何度もこうして、大勢の人達と一緒にご飯の時間を過ごした記憶がこの場を祝福しているかのようなぬくもりに包まれているのでした。
高知名物の鰹のたたきは、たっぷりのタマネギと一緒にいただきます。
裏の畑でとれたししとうの煮浸しや、トマトは新鮮で生き生きとしています。
元々私の実家では大皿料理を取り分けていただくのを基本としていたので、このスタイルはなんだかほっとするのです。今日初めて会う人も、再会した人も、みんなで皿をつつき合うことで、あっという間に一つの空気に染まってゆく。
旅好きな哲平さんとユミさんの日常へ、私たち旅人が集う。今までにもきっと何人もの若い人達が、二人から仕事を学ぼうと谷相へと登ってきたのでしょう。
弟子としてとどまる覚悟を決めた人は旅から抜け出て、ここを日常と決めて暮らしに根ざす。
その痕跡があちこちに残った、仕事場と家が溶け合う空間。
みんなでわいわいとご飯をいただきながら、ふと目を外へ向けるとそこに広がる緑色の景色が心を開放してくれる。
心も身体もふあーっと深呼吸。
旅でくたびれた細胞たちがよみがえってゆく。
布作家の早川ユミさんは、19歳の時にアジアを旅してから身体の中にアジアの地図ができ上がっていったという。
アジアを旅して出会った、心惹かれた布たちをどっさりと日本へ持ち帰ってきては、ちくちくと服やバッグや包むものを縫い上げる。
身体に残っている旅の思い出が、布の持っている記憶と一緒に歌を歌うように布に触れるユミさんはとても幸福な人だ。
滞在中はオーガニックマーケットに連れて行ってもらったり、畑を案内してもらったり。
色々な話をする機会に恵まれた。
ユミさんと話していると、手と口がとても表情豊かなのに心惹かれた。
嬉しくなった時、何かに興味を持った時にユミさんの口元は好奇心旺盛に反応する。
笑ったり、微笑んだりだけではなくて、しゃべっていてもだまっていても、唇がきゅっと形を変えて何かを語りだしそうにしている。
ユミさんは様々な表現の形態をもつ人だ。
縫ったり、書いたり話したり、身体を動かして畑仕事、自然と対話をして収穫をする。
その活動がまた次の表現に繋がっている。
旅の話をしながら、畑や日本ミツバチの巣箱のあるところへ案内をしてくれたユミさんは、楽しそうに嬉しそうに様々なものを見せてくれた。
日本蜜蜂のはちみつはお薬なのだそう。
日本の自然とともに生きている彼らに触れていると、様々なことを教わるのだそうだ。
農薬を撒けばいなくなり、寒過ぎても死んでしまう、空になってしまった巣箱を見て悲しい気持ちでいると、翌年にはどこかからやってきて、また巣箱の中は蜂たちで一杯になったり。
生命の力強さと弱さ、人が環境に与える影響力。
ユミさんは布仕事、畑仕事、台所仕事、書くこと、着ること、生活の中のどこを切ってもユミさんらしさで溢れている。
ユミさんの様々な行動の中からの発信を見ていると、自分と自然と社会と一緒に呼吸をすることは大切なんだよ、といっているような気がする。
ああもう、掘り下げたくなる性格からどんどん深まってしまいそうな自分と戦っています。
今回は、私の旅を中心に感じた谷相見聞録にとどまります。
来年3月に行う二人の企画展の前に、また二人の仕事と人についてご紹介しようと思います。
私たちが食事をしていた母屋から、小さな小川を越えて徒歩15秒のところに、哲平さんの仕事場はある。
哲平さんもまた、表情豊かな人だ。
私は初めて哲平さんと食事をした時に、
「何がしたいんだ~!?」と唐突に言われたことがある。
詰め寄るように言い放たれた言葉に、なんとも熱い人だなと思った。
何度か会って食事をしたり、お酒を酌み交わしているうちに、喜怒哀楽に素直なその人柄がだんだんと見えてきた。
何かに心が引っかかると、感情豊かに問答し、適当に流さず追求する。
美味しいと顔がほころび、子供のようににっこりと笑う。
悪いな、と思ったら「ごめんね」と心から言える。
感情の一つ一つが濃いので、その一部分だけ見た人はその印象が強くなってしまうかもしれない。
怒っているのを見たら怖い人だと思い、満面の笑顔に対面した人は無邪気な少年のようだと思うだろう。
付き合いだすと、その人間味の豊かさにどんどん親しみを感じていく人はきっと多いだろうと感じる哲平さんの周りには、たくさんの人が吸い寄せられて来たはずだ。
哲平さんは自分の仕事を心から愛している。
とにかくずっと仕事に触れていたいのだという。
柔らかい土を触るときのぶにゅう、と、手の間から逃げてゆく柔らかく冷たい感触も、薪窯におこした火に薪をくべる作業も、その緊張感や期待や、やり残した感覚も、みんな大好きなんだという。
土のような人だなと、哲平さんのことを思い返しながらふと思う。
水を入れると柔らかくなり、火で焼き締めると固まる、太陽に照らされると乾き、水と太陽と気温のハーモニーの中で草木が育つ豊かな土壌も土だ。
陶土も、陶器も、畑の土も、触感や見た目も全く違うように感じるのだけれど、どれも皆土の変化した姿だ。
知り合っていくうちに新しい発見があったり、より深くその人を知ることが出来るのは人生の醍醐味の一つだと、今はつくづく思う。
その位私の中で哲平さんという人は変化し続けている、味わい深い人なのだ。
足の裏や手のひらに、こんな土を触ったときの感触が残っていませんか?
指の間から逃げてゆく、何ともくすぐったくなるような感触。
土は様々な形になるけれど、うつわや道具として使う時、やはり使いたくなるうつわを作りたいと哲平さんはいう。自分が作るのなら、気づくと手に取っている、そんなうつわでありたいと。
哲平さんの薪窯の方へ続く路。
薪が整然と並べられていて、とてもきれいだ。
私が一緒に仕事をしたいなと思う人との出会いは二通りの出会い方がある。
ものを通して興味を持って、その人に会いにいくもの主体の出会いと、その人自身と出会って話してゆくうちに惹き込まれて仕事を一緒にすることになるという、人主体の出会い。
哲平さんもユミさんも、まずはその人と出会ってから始まったご縁。
数えてみたら、10回ほど一緒にご飯をいただいた。
ご飯を一緒にいただくと、人はどんどん打ち解ける。
食事を楽しんでいる時、私たちの感覚はオープンになる。
臭覚、味覚、視覚を前開にして、場を共有しているから。
そんな中で距離を縮めながら、最初会ったときよりもお互いを知り、親しみや敬愛の感情が育ってゆく。
谷相も、二人の暮らす家と仕事場も、畑もみんなとてもいいところなのでした
哲平さんとユミさん、2人の息子たち、そしてここを仕事の場として決めて滞在してきた人々、旅をしてきた友人達の、人から人へ、手から手へ、形の在るものも、その形の元となっているものが手渡されてゆく。
そんなことが生き生きと繰り返されている、そんな場に居合わせることが出来たことがただただうれしい。
未熟であって当たり前なのが人間。
それでも心動くことを仕事と決めて、その仕事を通して様々なものごとや人と関わり合いながら、人は学び磨かれてゆくのだということを、今回改めてつよく感じたのです。
Shoka:もそんな場でありたい、と。
人と深く関わってゆくと、悩みも、煩わしさもそこにはあるだろうけれど、喜びや、豊かさもまた人との関係性から来るものなのだ。
縁のある人達とどんどん関わりあおう。
豊かさやポジティブなことばかりを追いかけていないで、その影も受け入れよう。
二つはきっと一つなのだから。
そんな静かな決意を温めながら最後の夜を楽しみました。
人生という旅の中で、人と人がちゃんと向き合い交流し、その営みの中でものが生まれるところ。
ここにまた来よう、帰る時私はそう決めたのでした。
終了*最後にShoka:ではスタッフを募集しています。
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早川ユミさんと小野哲平さんの本
二人の活動に興味のある方は是非本を読んでみてください。
Shoka:にも今後置く予定ですが、今はまだ在庫がありません。
amazonで検索をかけると色々と出てきます。
二人のHPはこちら
http://www.une-une.com/index.html
二人のShoka:出の企画展は
2014年2月28日~3月16日まで
2月28日(金)は早川ユミさんのちくちくワークショップを開催する予定となっています。
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暮らしを楽しむものとこと
Shoka: