2014.05.10 くらしの中の旅日記 『犬と歩けば』

                        

*Calend Okinawaに連載していた田原あゆみの「暮らしの中の旅日記」から転載している過去の記録たち

shoka

梅雨入りした沖縄には重ための雨雲がたれ込めています。

それでも時折雲の合間から覗く太陽の光には、夏の力強さを秘めています。

例年より少し肌寒いゴールデンウイークになりましたが、どう過ごしましたか?
私は4月の末のヨーガン レールさんの誕生日を祝いに、石垣島へ行ってきました。

 

shoka

そこはいつ行っても独特の空気が満ちている。
レールさんの審美眼を通過したものが置いてあるうつくしい空間。
それを包む自然の光と陰。

南の島の植物から漂ってくる季節の花の香りや、海から吹いてくるこの季節特有のねっとりとした潮風。
アカショウビンの鳴く声が響く早朝と、コノハズクがささやく夕べ。

それから、ここには香り高いハーブや野菜が採れる畑や、果樹園がある。

shoka

緑が目にしみるパセリ。
とても新鮮でおいしい。

毎朝木からもいで食べたピタンガは、アセロラの様な甘酸っぱさ。

shoka

酸っぱさに口をすぼめたり、おいしーい!と歓声を上げたりしながらいただいた。
季節のものを、収穫した場で食べる事が出来るのはなんて贅沢な事なのだろう。

shoka

私はここにくると、毎日早起きをして、海を歩く。
海へ抜ける道は、ジャングルだったり、絶壁の岩場だったり。

うっそうとした植物の生い茂るジャングルを通っている時に、懐かしい甘い香りに包まれた。
見上げるとそこにはヤシの花が咲いている。
足下にはオレンジ色のヤシの花がぱらぱらと落ちていた。

甘い甘い香り。

昔、沖縄本島でお気に入りの海にいく時にもこの匂いがしていた。
私の島の若夏の山の匂い。

 

shoka

朝も、夕方も毎日毎日浜を歩いた。
いくつもある静かな海辺。

ゴールデンウイークなのに、観光地を外れた海にはほとんど人がいない。

波が洗った後のきれいな砂浜に、足跡をつけながら、私たちは良く歩いた。

墨と、雨と一緒に。
そして時々、空と。

ビーチに足跡をつけたのは、この子。

 

shoka

レールさんの愛犬、スタンダードプードルの墨はボールや木切れが大好き。
見つけては私たちの足下へ運んできて、そっと静かに置いてじっと見つめる。
投げて欲しいのだ。

中々気がつかない私に身体をぴったりと人にくっつけて存在をアピールしてくる事もある。

私の知っている限り犬たちは飼い主や、犬好きな人と一緒にいる事が大好きだ。

shoka

石垣島の街へ向かう途中、雨の降っている国道沿いにちょこんと座っていた子犬は雨と名付けられた。
車にひかれたらかわいそうだと拾われてから、はや10年。

ずっと石垣島のレールさん宅にいて、留守を預かっている。
控えめで、賢くて、やさしい雨。

私が朝起きてくると、「あう~~~あうあうあう~~~~」と声を震わせながら全身でうれしさを表現してくる。
ごろりとお腹を見せて、なでて欲しそうに見つめるのだ。
いつも他の犬たちの一歩後ろにいて、決して出しゃばらない雨。

みんなが東京に帰っていった後、何時かみんながここへ戻ってくる日を待っている雨を想像するとちょっと切なくなってくる。
みんながいる時は、雨にとっては待ちに待った日々。
震えるほどうれしいに違いない。

 

shoka

雨という名前が、ちょっとだけ寂しそうに感じられるのは、私が持っている天候の雨へのイメージなんだろう。

やさしい雨の事を、私はしょっちゅう雌だと勘違いしてしまう。

浜辺を歩いてする事は。

うつくしいものや、使えそうなものの拾い物。
時々立ち止まって、写真を撮ったり、犬さんたちと遊んだり。

彼らがいるのといないのでは雲泥の差。

私より体温が高くて、感情がストレートで、忠実で、愛情深い彼らと過ごしていると、一人で歩く何倍も景色が生き生きと見えてくる。

shoka

砂浜で遊んだ後、昼寝をしている墨の足の裏。
触ると私の体温よりもずっと熱いのにおどろいた。

 

shoka

この子は、空。
小さなトイプードル。

私の中では、その種類に収まらないくらい個性的で、不思議な魅力に溢れる子。
朝会った一番に、身体を押し付けて喜びを表現してくれる。
こんな子に好かれたら、うれしくない人はいないんじゃないかしら?

shoka

 

犬がいなくても景色は美しいけれど。

 

shoka

つぶらな瞳がこちらを見つめて、角を曲がってやってくるのを待っていてくれると・・・・
とたんに世界にはあたたかな血が通いだす。
光はきらきらと輝きだして、肺にはたくさんの酸素が入ってくる。

そんな気がする。

 

こんな風に、犬さんたちと毎日のように浜辺を歩いたゴールデンウイーク。
この子たちがまだ小さな頃にも、こうやって一緒に歩いたものだ。

私や共に歩いた友人たちも、犬さんたちも、海も、少しづつ変化してきた。

同じ場所でも、同じメンバーでも景色は少しづつ変化してゆく。

だから時々こうやって、今目の前に広がっている景色が目に深く染みてくる。

 

shoka

レールさんの工房でごろんと寝転がっていた雨。
ここでひとりで待っている時には、どんな風にしているのかしら。
道を見つめて、待っているのかしら。

私たちは決して一人の雨を見る事は出来ないけれど。

 

shoka

家へ帰ってくると、私の帰りを待っていた愛犬のぽぽとじゃいちゃんが走り寄ってきました。
同じ言葉で会話が出来ない分、寂しかったんじゃなかろうかと気になってしまう。
いつも誰かを待っているような犬たち。

待たせちゃってごめんね、そう思う事が多いのだけど、いくらでも待ちたいくらい好きな人がいるのも彼らにとってはしあわせな事かもしれない。

そうだよね、ぽぽ、じゃいちゃん??

 

今度の休みには海を一緒に歩こうね。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

暮らしを楽しむものとこと
Shoka:

カテゴリー: etc, rugü essay タグ: , パーマリンク

→ ブログの記事を一覧で見る