邂逅vol Ⅺ 2012/5/3

                        

文 田原あゆみ

写真 三谷龍二さん・ミナ ペルホネン提供ミナ ペルホネン

世の中はたくさんの「もの」で溢れている。
用を満たすという最低限のものから、無用ではあるけれどうつくしいもの、用も美しさをも兼ね備えたものまで。
意識の多様性がものとして表現されて、この世の中にどんどん生み出されている。

私はシンプルに生きたいと思っている。
けれども同時に、本当にいいものと巡り会いたい、それを使ってみたい、もちたいと欲してもいる。

いいものとは「うつくしいもの」。
では、「うつくしいもの」とは、なんなのだろうか?
この世の中に無数の価値感がある様に、「うつくしいもの」という定義もまた多様性に満ちている。

一体、私が「うつくしい」と感じるものはどういうものなのだろうか。

最近、ただ単にフォルムがきれいとか、色のバランスがいいとか、きめの細かい肌の具合がうつくしいとか、表面的な事ではなくてもっと感覚的なところへすっと入ってくるものに惹かれるようになった。
いや、もしかすると、ずっとそうやってものを選んで来たのかもしれない。
もちろんたくさん失敗もしたし、時間とともに色があせてゆくものも、逆にどんどん好きになってゆくものもある。

今の私が、うつくしいと思い、手にしたい、使いたいと思うものは、

「心に灯がともる」もの。

うれしくなったり、楽しくなったり、触れている人達の表情がぱっと明るくなるようなもの。
それは言葉にはならなくても、生きているって良いな、そんな感覚が静かに身体に広がってゆくようなもの。

自分自身の愉しみのために使いたくなるもの。
誰かと一緒に楽しみを分かち合いたく選ぶもの。

ミナ ペルホネン

ミナ ペルホネンのpiece,のバッヂたち。
ミナ ペルホネンのテキスタイルの端切れは、最後まで命を吹き込まれて私たちのもとに届く。

このバッヂをつける人は、どんな人なのだろう。
バッヂやブローチをつける人は、自分を楽しませ、自分が会う人の目をも楽しませる事のできる人なのかもしれない。

こんなバッヂをつけたら、楽しさと一緒に元気が伝染してゆくだろう。

ミナ ペルホネン

ギャルリ百草での展示の様子。

なんてしあわせな気持ちにしてくれるのだろう。
作り手がテキスタイルに愛情をもち、最後まで生かす事を考えている事、そのことが私たちの胸まで届くのだ。

東京と京都の2カ所にあるpiece,はミナ ペルホネンのかけら(ピース)を集めたショップ。
洋服を仕立てたオリジナルテキスタイルの残り布をパッチワークして、手作業により様々なものを生み出している。
今回のShoka:での企画展にもpiece,の製品がやってきます。

たくさん作って、たくさん捨てる。
そのような事が当たり前のだった時代に育った私たちは、あの頃、ものと同じように、自分が大切な存在だとはなかなか気がつけなかった。
だから、こんなに大切に作られ、最後まで命を吹き込まれるものがある事、そのような仕事をしている人達がいる事が、ただただ、うれしい。

そのような仕事の存在を知ると、私たちは、楽しさや喜びを注ぎ合える仲間としてここに生きているんだ、と、思える。

ミナ ペルホネン

ミナ ペルホネンの布をベッドに、出番を待っている三谷さんのスプーンとフォークたち。
木のカトラリーや器は、たまに植物性のオイルで磨くと深みとつやが出てくる。
楽しかった時間が木に記憶されて染み込み、かけがえのない生活道具となってゆく。

ミナ ペルホネン

使い終わったら思い出も一緒に布で包み込んで。
やさしい木肌が手になじむ。
暖かくて美味しいものを注いでゆくと、私たちの気持ちも一緒に充たされてゆくようなカップだ。
普段使いにもいいし、ピクニックにもって行くのに軽さがとてもいい。

漆で仕上げたやさしい器。

ミナ ペルホネン

カップと同じ様に拭き漆で仕上げた木のお皿。
みていると、懐かしい気持ちになる。
触れて、なでて、この上に何をのせようか?

黄色い卵焼きと、赤いトマトを挟んだシンプルなサンドウイッチ。
マスタードをたくさんぬって。

それともきれいな色をちりばめたちらし寿司?

ミナ ペルホネン

シンプルにバタートースト。

たまらなくなって、私は今フライパンの上でシナモントーストを温めている。
深入りのコーヒーも挽かなくちゃ。

器をみて、食べ物が浮かんでくる楽しさ。
健全で、健康な証。
三谷さんの木の器たちには、食べる楽しみと、使う楽しみが最初からこもっている。

きっと作り手の三谷さんが、それをうんと楽しんでいるのだろう。

ミナ ペルホネン

木のスプーンや、ホーンのスプーンを使う様になってから、私は金属のスプーンをあまり使わなくなってしまった。
木肌やホーンの滑らかさと、ぬくもりは私たちの肌にとてもやさしいので、食事がもっとおいしく感じるのだ。
元々私たちは、木やタケで作られたお箸で食べ物を口に運んで来た。
その感触とぬくもりと同じものが木のスプーンにはある。
木は金属よりもずっと、私たちの身体に近いような存在だ。

木のフォークが欲しくて、私はずっと三谷さんの作品が来るのを待って来た。
使う日がとても楽しみだ。

ミナ ペルホネン

ピクニックセットのひとつ。
中には上の写真の皿や、フォークやカップが収まっている。
これは松本にある10cmで展示されたもの。

Shoka:には一体どのようなピクニックセットがやってくるのだろうか?

ミナ ペルホネン

10cmでの展示風景。
皆川さんがデザインした、ちょうちょの羽のような形のお皿は2枚で一セット。裏はカットボードにもなる。

ちょうちょのお皿が二つ、それから丸いお皿二枚とフォークが二つ、木のカップ二つをミナ ペルホネンのバッグに入れたら、それがピクニックセットになる。
バッグの名前は緑色のが「山のチェック」、青いものが「海のチェック」。

何だかとてもHappyなセットだ。
使い続けて、年をとっておばあちゃんおじいちゃんになった時に、一体どれだけの楽しい時間をこの器たちと一緒に作っているのだろうか?
海や、山へ出かけて、みんなで分け合っていただく楽しさ。
それを布でくるんで、バッグに入れて、気軽に持ち運べる身軽さ。

この写真一枚をみていても、青空やそこに浮かぶ雲、風が運んでくるいろいろなもの、水しぶきと陽のきらめきが見えるようだ。
誰かのハナウタも聴こえてくる。

ミナ ペルホネン

このザッハトルテは誰かが食べてくれたのであろうか?
とてもおいしそう。
カップにはミルクティーを。
いや、シナモンチャイかな。
深入りのコーヒーをブラックで、の方がザッハトルテと合うかしら?

やはりいろいろと描いてしまう。
あとで聴いてみたら、この写真は、皆川さんが三谷さんの作品をザッハトルテに見立ててディスプレイしたのだそうです。
だから全体がとてもおいしそうに見えるのですね。

日々の暮らしの「食」に関わる道具たちは、生きる事に一番近いものたちに違いない。
その道具たちがちゃんと、食欲を刺激してくれるのはうれしく、楽しいことだ。
このお皿も、私も健康だ!と歌いたくなる。

ミナ ペルホネン

安藤さんが自分の中にある、うつくしいラインを捉えて彫りだす。
足す事も、引く事も出来ないようなシンプルなライン。
そこに絵付けをするというのだから、一体どのようなことになるのか、私には全く創造することが出来なかった。
皆川さんもきっと、腹を据えてとりかかったに違いない。

でき上がった写真を見ると、なるほどなるほど、お互いが引き立つというのはこういう事なのかと感じ入る。
ひとつの世界になっていることがすばらしい。

お互いの仕事に敬意があるからこその調和。

ミナ ペルホネン

安藤さんが器を作って、そこに皆川さんが絵付けをした椀。
これは・・・

風邪で臥せっているとき、誰かがこの器におかゆを容れてもって来たら、もう、私はすぐに病人をやめるに違いない。
もちろんおかゆは食べたいが、食べなくても気力がよみがえってくるだろう。
要するに私はこの器が欲しい。

しかし、きっともう誰かの手に渡っているのだろう。
なぜならこの写真はギャルリ百草で先日行われた「作りの回生Ⅱ」で展示されたものだから。

見たかった。

けれども、しかし、こんな器を人が作ることが出来るという事が嬉しい。

人が作るものはこのようななものであって欲しいと思う。

ミナ ペルホネン

最初に投げかけた質問。

「うつくしいもの」とはなんだろう?

誰かの心に灯をともすようなもの。

「うつしくあろう」「うつくしく生きよう」というところへ向かうきっかけとなる、
そのうつくしいものを作る人の、心の在り方がうつくしい。
その在り方から生まれたものごとが、「うつくしいもの」。

そんなうつくしいものたちが、またShoka:へやって来ます。

私の自宅を改装してShoka:が始まってから一年。
数えるのが苦手な私が、やはり日数のカウントを間違えて入れてしまった過密スケジュール。
次から次へと、行われた展示会にみなさんも私たちと同じく息が切れかけていたかもしれません。

5月11日からスタートする
NO BORDER, GOOD SENSE

この企画展がある意味ひとつのサイクルの終わりです。
始まってから一年とは思えない、分厚い時間を過ごしてきました。
そのお陰で、うつくしいものに触れ、それを作っているたくさんのぬくもりある方達に出会ってきました。

個人的にも社会的にも多くの出来事があった一年でしたが、こんな時代だからこそ、今ここにある豊かさを見逃したくない、多くの人と分かち合いたいと思っています。

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mina

NO BORDER, GOOD SENSE

三谷龍二 木工デザイナー

安藤雅信 陶作家

皆川明 ミナペルホネンデザイナー

場所や時間やジャンルを超えて、一緒にもの作りをしたわくわくが形になりました
「すきな時に、すきなところで、すきな人達と一緒に作ったもの」
友人達とピクニックに行きたくなるような、楽しい世界が初夏の沖縄に集まります

2012年5月11日(金)~20(日)12:00~19:30
*初日のみShoka:は18:00にてクローズいたします*

コラボレーションのうつわたち/三谷龍二の木の器/安藤雅信の陶器/ミナペルホネン 雑貨とランドリーの服

この企画展のあとShoka:は常設に向けてしばらくお休みとなります。
8月から、作り手も使い手も楽しく交流する場として、Shoka:はオープンいたします。
より楽しい場となるようチームShoka:でイメージを膨らましているところです。

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NO BORDER, GOOD SENSE 初日のトークイベントのご案内
NO BORDER, GOOD SENSE

ON BORDER

三谷龍二+安藤雅信+皆川明 トークイベント

2012年5月11日(金)18:30~

企画展「NO BORDER, GOOD SENSE」の開催にあわせて、トークイベントを開催します。自分の感覚を軸に仕事を確立している3氏が、時間や空間の境界線を越えて、コラボレーションをした今回の仕事。その制作を終えて、それぞれが自分のBORDERに立ち返って、今回の仕事を振り返る時間。
ものをつくるという事、それぞれが大事にしている事など、聴きたい事は山ほどあります。今回はミナ ペルホネンの皆川さんがインタビュアーになって、話し会を進めてゆくそうです。私たちもとても楽しみにしています。

日時: 2012年5月11日(金)
開場: 17:30
講演: 18:30~20:00

<完全予約制>
定員に達し次第閉め切らせていただきます
*当日のみShoka:は18:00にてクローズいたします*

会場:  Roguii
参加費:1ドリンク、軽食付き1500円

予約方法(必ず5/11のトークイベントの予約と明記ください)
1 全員のお名前
2 人数
3 メールアドレス
4 携帯番号
5 車の台数(駐車場スペースに限りがございますので、乗り合わせのご協力をお願いいたします)
6 住所(Shoka:からイベントの案内が欲しい方のみ記入をどうぞ)

shoka.asako@gmail.com  関根までメールでご予約ください。
◯Shoka:の展示期間中はお子様連れも大歓迎ですが、今回はお話に集中していただきたいことから大人のみのご参加とさせていただきます。ご理解のほどお願い申し上げます。
◯当日は立ち見の可能性もございます。予めご了承ください。
◯先着順で定員に達ししだい、締め切りとさせていただきます。
◯ご予約のメールをいただきましたら、こちらから返信をもちまして予約完了といたします。

*4月7日発売のミセス5月号180p~189pに特集が載っています*
*CASA BRUTUS 5月号にも3氏のコラボレーションの記事が掲載されています*

※ たくさんのお申し込みをありがとうございました。こちらのトークイベントは定員に達しましたので、ただいまキャンセル待ちにて受付させていただいております。楽しみにされていた方は大変申し訳ございませんが、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。 

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