邂逅vol Ⅷ 2012/4/5

                        
「mon Sakata がうまれる手」

写真・文 田原あゆみ

坂田敏子さんに会うのは、大きな楽しみのひとつ。

自分の考えや経験からは、予想も出来ないような反応や返答が返ってくるときに、人は刺激を受けて自分の枠から抜けることが出来る。
目から鱗が落ちたり、爽快さを感じたり、なるほど!と思ったり、時には心底可笑しくなってくる。

坂田さんと話していると、短い間にそのどれもがやって来て、最後は大笑いで終わる事が多い。

そう、いつも、私の期待を上回るような反応が返ってくるのだ。

「mon Sakataの服は、どのようなプロセスの中で形になってゆくのですか?」

mon Sakataのデザイナーである坂田敏子さんは、まずは素材を手で存分に味わってから立体をイメージしていくという。
糸を指でいじってみたり、織られた状態をなでたり、指でなぞったり、しっかりとその感触を感覚の中にインプットする。
そうして、この素材ならばどのような形がいいだろうかと、イメージを膨らませてゆく。

手の触感を味わう事で、あらゆる感覚が起動して立体のイメージが膨らんでゆくのだろう。
人の手は、触る事を通してたくさんのメッセージを読み取ることが出来る。
その情報は視覚と合わさって、私たちの脳にメッセージを送り、そして形を作り出す作業もしてくれる。

情報を読み取るバーコード以上の役割を果たしつつ、製造までこなしてしまう私たちの手。

私はずっと坂田さんの手の動きを追いかけていた。

そうやってみていると、とても表情豊かに「手」自体が表現をしている。
当たり前の存在になっている手の事を、じっと観察していると、あり得ない位大切なものだと実感が湧いてくる。

形へのイメージが育ってゆくと、今度はそれを立体に起こす人とのやり取りが始まる。

絵を描いたり、イメージに近い画像を探し出して見てもらったり、言葉で説明したりと、自分の中にある形と実際の形を近づけてゆく。

この「手」は、絵を描き、映像を集めるだけではなく、様々な動きを表情豊かに表現するコミュニケーションツールとしても活躍する。

「私はね、寒がりなのよ。だから重ね着が好きなんだけど、ほらね。今日も4枚重ねているのよ。あら、もっとだったかしら? ふふ、この仕事に向いているわね」
と、笑いながら、薄手のコットンのリプセや、コットンウール、ウールのニットの重ね着を見せてくれる。

手の感覚からうまれた服たちは、素材と形が自然に結びついているせいか、着るうちにどんどん肌になじんで柔らかくなってゆく。
その心地の良い感触は手だけではなく、肌全体で楽しめる。

私のクローゼットの中のmon Sakataの綿のカットソーたちも、かなりしんなりと肌になじんで来た。
たたんでいる時には一見くたくたに見えるけれど、着ると形はいいし、とにかく肌触りがいい。
これも、手で味わった素材の感触が元にあって、それに見合う形になっているからなのだろう。

坂田さんの手の感覚はステキだ。

mon Sakata の始まりを象徴する小さなシャツ。
息子さんの彩門さんが、小学校に入学する時にデザインした子ども用のブラウス。
mon は彩門さんの「門=モン」でもあり、フランス語では「私は坂田です」という意味にもなる。

飾らないそのまんまの印象と、ユニークさが坂田さんらしい。

「坂田さんの自由な発想はどこから来るのでしょうか?」

色の組み合わせが楽しめるアームウオーマーは、人気者。
腕に通して日除けや防寒の役割をしてくれるだけじゃなくて、結んで長くすることでマフラーのように首元に色を添える事も出来る。

中央の写真は、金属の繊維が織り込まれている綿のコート。
四角い平面な形を、金属の質感を利用してくしゅくしゅ感を出したり、その人の身体のラインになじんだ着こなしが出来る。

坂田さんがデザインする服や雑貨には、どこか使い手が着こなす時に楽しめる「遊び」という空白の部分、隙間のようなものがあるように思う。
着る人達がその隙間に入って、その人の感覚で自由に遊び、着こなす。
そして面白いのが、変化を楽しめるという事。
昨日着ていたカーディガンを今日はひっくり返したり、逆さまにして着てみる。
カットソーブラウスの重ねを変えたり、袖をつけてみたり外したりと、決してひとつの型にはまる事がない。
完成しない事が楽しい服なのだ。

なるほど、変化し続けることの中に人は自由を感じるのかもしれない。

どうしてそんなに自由な発想が出来るのだろう?

疑問を持って見つめてみると、坂田さんのスペース、空間そのものにも余白があるんだな、と。
それは坂田さんという人柄もそうだ。

ニュートラルな余白、会話の中の間を楽しむゆるさ。

余白を残したような感覚的な遊びが、あちこちに。

服をデザインする時にも、ちゃんと余白があって、意図せず起こった事が入り込むことが出来る。
内側にしまい込むはずのマチの部分が、くるくるとねじれているのを見て「あら、これもいいわね」と、採用されて製品になる。
パンツのフックに使うはずのフックが、ちがうところで活躍したり。

偶然を楽しめる柔らかさがmonSakataの服を自由にしている。

そうそう、忘れられないことがある。
2回目に坂田さんに会ったときのこと。

緊張している私に、

「あの~、沖縄ってどんな形をしているのかしら?・・・・・私知らないのよ沖縄のこと。
沖縄の形、紙に描いてくれる?」

手渡された紙に、妹と一緒になって一生懸命思い出しながら沖縄の形を描いてみた。

多分間違っているだろう、その沖縄の形をみながら、

「そうなのね、沖縄ってこんな形をしているのね・・・ふーん、そうなんだあ・・・・
沖縄にはどんな形の服がいいのかしらねえ・・・」

坂田さんは、長いことその紙の上の沖縄を眺めていた。

その時から、私は坂田さんが大好きになったのでした。
まさしく私にとっての、「思いがけない反応」だったのです。

「2年ぶりですね mon Sakata展」

4月20日(金)~29日(日)
初日には坂田敏子さん在廊予定
12:30~19:00
※初日はトークイベントを開催のため、18:00までの営業となります。

素材を手でしっかりと味わってから作られるmon Sakataの服。
逆さまにしたり、重ねたり、自由な着こなしが自分流に楽しめる。
洗ってくたくたになってからがまた気持ちがいい。
自由な発想、自由な着こなし。
ニットは8年前に買って、一番のお気に入りの麻のニットを
坂田さんがリバイバルで作ってくれました。
本当にいい形です!
ちなみに上の写真のパンツは「gagaパンツ」という名前だそうです。
2年ぶりのmon Sakataが楽しみです。

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「2年ぶりですねmon Sakata展」にあわせ、坂田敏子さんのトークイベントを開催します

「手の力 感覚を立体に」

4月20日(金)18:00~19:30まで 完全予約制
(初日のみShoka:はトークイベントのため18:00にてクローズいたします)

坂田敏子さんのデザインは触感から始まります。
素材を触って、手と目で存分に味わってからその素材がどのような形になるといいのか、どんな風に着たいか、をイメージします。
自分の感覚を頼りにして何かをする事は、回り道のようだけれど実は自分に合った土台がしっかりと作れる確かなステップだと思います。
最初にマニュアルがあるのではなくて、自分で自分の中にある形を探り出してゆく。
こんなふうがいいよ、と提案されてみんなが鵜呑みにしていた様々な型が崩れてゆくことが多くなった今、自分の感覚を大事にし育ててゆく事はとても大切だと感じています。
目に見えるものを作る時にも、方法や仕組みなどの見えないことを作る時、そのどちらにも自分の感覚をONにして取り組むという事はとても大切なことだと思います。

今回田原は、感覚的でとてもユニークな坂田さんからそんな話しを聴いてみたいと思っています。
いつも予想外の反応が返ってくる坂田さんから、どんな応えが返ってくるのかとても楽しみです。

どんなお仕事をされている方でも、とても楽しく参加出来ると思います。

なお今回から駐車場からShoka:までの送迎を業者さんへ頼む事にしました。
代行に押されながらもがんばっている、地元のタクシー屋さんへ依頼しようと思っています。
なのでみなさまから300円ずつを参加費として頂戴する運びとなりました。
どうぞよろしくお願いします。
地元の仕事人も応援したいと思います。

では、Shoka:にてお会いしましょう。

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