2013.04.25 世代を超えて残るもの  手編みのゴートメッシュと、大切に作られた服

                        

*Calend Okinawaに連載していた田原あゆみの「暮らしの中の旅日記」から転載している過去の記録たち

Shoka:

TOUJOURSのこのシルクのドレスを初めて見たとき、色の深さと素材の質感が絶妙のバランスなのに引き込まれた。

TOUJOURSの服を着たことのある人は知っていると思う。
肌触りが圧倒的に良いのだ。
日常着を作ることに徹しているブランドなので、着心地には相当こだわっているのだろう。

肌への馴染みの良い風合いを出すために、素材を何度も洗ったり、揉みを入れたりしながら独特の風合いを出す。

デザインも、軽くて身体のどこも締め付けない、風通りの良い形をしている。

Shoka:

季節の風が通り抜けてゆく。

Shoka:

前を開けて羽織るように着てもいいし、紐をちゃんと結ぶニュアンスのあるドレスに。

感覚なので言葉にするのはもどかしいような気もするけれど、とにかく身体がうれしくなるような服を作るブランドなのです。
私は綿素材のカットソーを着てから、その着心地の良さの虜になってしまいました。

セリシン(シルクの糸に元々付いているタンパク質)が程よく残った素材なので、着て洗ってを繰り返すうちに、とてもしなやかに変化していきます。
いいものは経年変化もうつくしいのです。

それから、TOUJOURSやARTS&SCIENCEの染めの仕事には感心します。
藍染め等の天然染料を使った染色は、発色のうつくしさと、その後の色落ちの具合で仕事の技量を測ることが出来ます。

2社ともに、個人の顔が見える日本の工房や小さな工場と契約をしていて、関わっている職人さんたちの染色の技術の高さが伺えます。
もちろん、科学染めも天然染めも、洗濯や着用時の摩擦、そして光による退色は当然のことです。
それでも、やはりうつくしい色や風合いの変化と、そうではないものの差は歴然としています。

自分の仕事へ愛と誇りを持つ人々の手にかかったものは、経年変化もまたうつくしいのは当然のことなのかもしれません。
もちろん、使い手の側の扱いによっても差は出てきますが、誇りを持った仕事にひかれてくる方達はやはりものを大切に長く使いたいという思いを持っている方がほとんど。

ものもそうだけれど、私たち人間も良い経年変化を辿りたいものですね。
同じシワでも、笑い皺を刻みたいと常日頃心がけている私です。

経年変化といえば、ゴートメッシュ(山羊革のメッシュ)のバッグや雑貨の変化にはすばらしいものがあります。

Shoka:

実家のベンチの上に無造作に置かれていたのは、私の母のゴートメッシュのバッグ。
使い始めてから10年ほど経ったもの。
最初はきしきしと締っていて、張りのある山羊革。
牛革よりも軽くて薄く、使うとどんどんしなやかに柔らかくなってゆくのが特徴です。

面白いのは、風合いの変化をみせようと、古いものを見本に置いていると、それを欲しがる人が多いということ。
新しいものよりも、使われてしなやかさと艶がましたものの方がずっと良く見えるのです。

写真のように、真新しいメッシュには独特の張りがあります。
使っているうちに、深い艶が出てきて、柔らかくなっていきます。

Shoka:

こちらは変わり編みを施されたバッグ。
革ひもの幅を変えながら、一体どうしてこの形に収まるのだろうか?と不思議な気持ちになります。

くたくたになった5年後は、一体どのような表情に育っているのでしょうか?

Shoka:

この緑色と白灰色の楽しいメッシュのバッグも、今はこんなに張りがあるけれど使ううちにすごく良い表情になりそうです。

これはとてもいいバッグに育ちそう、私はそう確信しました。

使い込むうちに、自分の手でしなやかに育ってゆくバッグ。
私は20年以上このゴートメッシュのバッグたちを見てきていますが、こんなに愛される素材は他にはなかなか無いと思うほど、ファンの多い素材です。

なかには20年前のメッシュのバッグを持っている方もいらして(私も持っています)、そのバッグの素敵なことといったら!

飴色になったしなやかな外見と、深い艶。
思わず撫でまわしたくなるような雰囲気が漂っています。

Shoka:

先ほどご紹介した、母のバッグもその仲間の一つです。

使い込まれてくたくたに柔らかくなったメッシュのバッグの中には、同じ素材のお財布やポーチが入っています。

母はメッシュのバッグが大好きで、コツコツ集めてきたもの。
実はまだまだあるのです。
どれもこれも柔らかく光っていました。

何が入っているの?
おかあさん。

Shoka:

「ポーチの中には、大事なことをいろいろ書く無印のメモ帳を入れてあるのよ。他にも色々とね」

覗いてみると、切り取られた新聞の記事が挟み込んであったり、気づいたことや忘れないように書かれた箇条書きがメモ帳にはちらほら。

「お財布もね、メッシュのが大好きなのよ。そうそう、これあなたがプレゼントしてくれたのよね。冬の間は仕舞っておいて、春に出して使い始めるのよ。ほら、良い色になったでしょう?」

Shoka:

お財布のなかに1ドル紙幣が入っているのが、コザで長年お店を経営していた母らしい。

大事に使ってくれてうれしいな。
ティーアンダ(手の油や手からこぼれる愛情)で、よりいっそう深い緑色になっている。

Shoka:

こちらも母のメッシュのバッグ。
何だか新品よりもいい感じに見えます。

手でいっぱい触ると、このように風合いが育つのです。

うちの母は大胆な性格で、細やかに手入れをするタイプではまったくもってありません。
例えば、思い立ったらこのような格好でいきなり畑仕事を始めたり、ヨーガンレールのシルクのスカーフで犬の口周りを吹いているのを家族に目撃されています。

そのシルクのスカーフは、古くなっていて穴が開いているからだと本人は言っていましたが、その大胆さには度肝を抜かれることもしばしば。
他にもびっくり仰天の逸話を数多くもつ母。
続きは、Shoka:にてお茶のともにお話しいたしましょう。

Shoka:

生まれてからウン十年。
経年変化を経たうちの母。

私たちShoka: ・ ten ・ Roguiiの3人姉妹の親分です。

3人が束になってもかなわないようなスター性を持つ母は、現れるとその場の空気を全部かっさらってしまうほどのバイタリティの持ち主。

庭仕事をしていた母にお願いをして、写真を撮らせてもらったのですが、ささっとお気替えをしてきてくれました。

「ネックレスまでつけちゃって、大げさじゃない?外した方が自然じゃない?」

と私。

「あら、私はいつもネックレスはつけているのよ。外すと落ち着かないわ」

と、母。

バッグの中味を出して紹介している写真を撮っていると、

「ちょっと待って」

Shoka:

おもむろに手を上げて、しばし停止。

「こうすると、手がきれいになるのよ。
ま、一瞬だけどね」

こうするとどうやら、手に浮き出る静脈が引くらしい・・・。

Shoka:

撮影中ずっと開いていたバッグのファスナーを最後に閉めた母。
お茶目な母が愛する山羊革のメッシュ。

中国の職人さんに編んでもらっているのですが、やはり中国でも職人さんたちの高齢化が進んでいるようです。
この風合いの良さを知ってもらって次世代が育つことを願うばかり。

Shoka:

Shoka:

今は真新しいゴートメッシュのバッグやサンダルたち。

使い手と一緒に楽しい時間を刻みながら、誰かに撫でられて柔らかくなるのを待っています。

Shoka:

「ゴートメッシュ展」は5月6日(祝日月)まで。

この機会に、是非手に取ってその風合いの変化を感じてみてください。

Shoka:

「ゴートメッシュ展」
5月6日(祝日月)まで。

山羊の革を職人さんが手で編んで仕上げた、メッシュの製品がShoka:に集まりました。
バッグ・サンダル・ポーチ・財布・小銭入れ・名詞入れ・キーホルダー etc

Shoka:

暮らしを楽しむものとこと
Shoka:

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