邂逅vol Ⅸ 2012/4/12

                        

「NO BORDER, GOOD SENSE」仕事場を訪ねてⅢ「四番目の葉」  ミナ ペルホネンデザイナー 皆川明

2012.04.12

写真 田中景子 ミナ ペルホネン テキスタイルデザイナー
文 四葉の写真  田原あゆみ
NO BORDER, GOOD SENSE

皆川さんはデザイナーという職業をしているが、私が持っていたその職業に対する概念に収まらない人だ。
一人の人間の中に、一体どれだけの才能と可能性が眠っているのだろうか。
皆川さんの仕事に触れるたびに、私はそのことを感じてわくわくする。

陸上競技の選手を目指していた学生時代、ジャージしか着た事のない青年が、怪我をしたことからその道を断念、ヨーロッパへの旅に出た。
そこで出会った数々のもの達。特に北欧では、日用品のデザインが時代に左右されないものになっていて、人々が大切に使っている事を肌で感じ、そこに本質的な豊かさを感じ共感した。
また、同じ旅の途中、偶然が重なりパリコレでアルバイトをすることになった。
その時に初めて触れたファッションの世界に新鮮さと感動を覚え、その世界に関わる事を一生の仕事にしようと決める。
決めてやり続けたら、不器用な自分でも10年後にはある程度縫える様になるのではないだろうか、苦手な事だから飽きないのではないだろうか、と。

それから16年で、現在の様々な年代から支持されるブランド、ミナ ペルホネンとなった。

今ではもう、あまりにも有名になったエピソードだ。

その合間には、様々なストーリーが隠れている。

文化服装学院の夜間部に通い、留年もしたこと。
なかなか服が縫えなくて、卒業までに一着しか提出出来なかったこと。
テキスタイルからオリジナルで作るブランド“ミナ”を設立し、スタートしてから創業期の3年間は、昼までは魚河岸で70kg前後もあるようなマグロを解体し、そのあとから服を縫ったという。

皆川さんの現在に到るまでのストーリーの中には、ええ!?、と驚くようなエピソードが溢れていて、書き出したら何冊も本が書けそうだ。
そして多くの人は、謙虚で誠実な人柄がそのまま伝わってくる彼の語り口に耳を傾けながら、彼の中にある静かな情熱を感じてどんどん惹き付けられてゆく。

意外性というのは人間にとって一番魅力的な事なのではないだろうか。

詳しくは下記のリンク先からどうぞ。
皆川明トークイベント 前編 後編

そして、話を聴いた人達は、
あきらめないその意思の強さはどこから来るのだろう?
どうしてそんなに視野が広いのだろうか?
その審美眼はどのような環境で育ったのか?
どうしてそんなにぶれないのか?
どうしてそんなに、簡潔に答えられるのだろう?
なぜ、言葉が胸にすっと入ってくるのだろうか?

と、たくさんの疑問を皆川さんへ問いかけたくなってくる。
人はやはり意外性に引き込まれるのだ。

そうやって様々な人が皆川明という人に魅了されてゆく。
それと同時に、何だか嬉しくなって親近感を覚え、応援したくもなってくる。

もちろん多くのデザイナーに対して感じるようなあこがれや、尊敬の念も感じているのだが、それを越えるものを彼は持っている。
この人と一緒にやりたいと思わせる何か、人が応援したくなるような何か、そんな天性的な魅力に溢れているのだ。

NO BORDER, GOOD SENSE

人が自分自身を知るためには、机に座って辞書をひいても、インターネットで検索をしても見つからない。
本をたくさん読んでも、好みや独自の感動の源は分かるが、いざ社会の中での自分というものははっきりとはつかめない。

仕事を通して、社会の中で多くの人と関わったり、実体験を重ねていって、徐々に自分のことが見えてくるのだと思う。
特に、誰かに与えられた仕事をするときより、自分が責任を持ってやりたいと思っている仕事をした時にそれは顕著に現れてくるものだ。

やりたいと思っている事をやり始めると、そこには様々な雑務が発生する。
時には、誰かのサポートを得なければ出来ない事も多々ある。
けれどもすべては自分が表現したい事に向かってゆく過程の一部なので、苦手だと思っていた事も時間をかけて工夫してゆくと以外と出来るようになってくる。
そして、そこにまつわる様々なことを出し惜しみせずにやってみると、自分の中に潜んでいた才能が表れてくる。

その才能は時に思いがけないものであったり、以前からやりたいと思ってなかなか出来なかった事が、目的を持ったとたん発揮されることもある。
そうして社会の中で自分の姿が客観的に見えてくると、他者と違うところこそが、自分の才能なのだという事がはっきりと自覚出来るようになってくる。

それが自分にしか出来ない事につながっていたり、自分が社会と分かち合えるギフトなのだと気づくことが出来たら、それはとてもしあわせなことだ。
そのギフトを分かち合えばあうほど、その行為はまわりまわって自分自身の存在意義に豊かな栄養を与え、自己実現という喜びにつながってゆくから。

自分の喜びを知っている人こそが、周りをしあわせにすることが出来るのだ。

NO BORDER, GOOD SENSE

しあわせという言葉はみんなが知っていて、なかなかその実感を持続する事は難しい。

皆川さんから聴いた「四方良し」の話。
売り手よし(ショップに限らず売る人)、買い手よし(お客様)、作り手よし(製造者)、社会よし
その四カ所のどこにいる人達も「よし」と思っている所を、意識しながらものごと進めてゆくというミナ ペルホネンの仕事。

誰かが無理をするのではなく、関わるみんなが喜びを感じ、やりがいを感じている状態が崩れない様にバランスをとるのだという。

とても心に残った在り方だ。

私が一番最初に着たミナの服は「sometimes lucky」というクローバーが刺繍されたブラウス。
そのシリーズは最後に、ひとつだけ四枚目の葉っぱを手刺繍してから仕上げてある。
なのでどこかに四葉のクローバーがあり、それを見つける楽しさと、そのストーリーを一緒に着る喜びがある。

四葉のクローバーの中心にある茎を軸に、四つに広がった葉っぱたち。
その葉っぱに、自分の仕事と関わりのある人達を乗せて、その全員の喜びややりがいのバランスをとることを意識したとき、何が必要で何がいらないのかが感覚的に見えてくる。
そうしてバランスをとったところにしあわせという感覚があるのだろう。

そしてその四つをあわせる事を、「しあわせ」というのかもしれない。

皆川さんは四葉のクローバーを探すのが驚くほど早い。

NO BORDER, GOOD SENSE

「そして他人と違う個性を自分の中に見つけたとき、四番目の葉は、
その人の中にも存在するような気がする。」

文化出版社「皆川明の旅のかけら」より抜粋

ミナ ペルホネンの服や雑貨や、表現するものすべてに触れると、多くの人がにっこりとしてしまうだろう。
四番目の葉っぱを見つけることが出来た人という他にも、その理由はあると思う。

それは、皆川さんが始めた当初からいつも100年先をみていた事に起因する。
100年続く仕事を目指した時に、自分をスターターと位置づけ、その役割を全うしようと決めたこと。

そうやって時間軸を広げて見える景色の中には、いまバトンを持っているという責任と、それをいつか手放すという自由さを同時に感じることが出来るはずだ。
そして、常に100年先を見ながら、今出来る事は何か?と客観視する事で、プロセスの中の一部として必要なことが見えてくる。
特別な事を成し遂げる、というのでは無く、まるで日常のような仕事。
短いスパンで何かをしようとすると、それは時に特別なことになってしまう。
特別なことをしようとすると、どうしても力が入り、結果を期待してしまうのが人間だ。
時に期待というのは人を裏切ることもあるが、プロセスの一部だとみることが出来た時、人はぶれることが少ないのではないだろうか。

「常に100年先を見る」ということを決めているから、ミナ ペルホネンのものづくりには日常を楽しむような軽やかさと、ハーモニーが聴こえてくるのかもしれない。

NO BORDER, GOOD SENSE

紙に描かれたラインが形になってゆく行程。
飛び立つ日を、静かにじっと待っているさなぎたちにも見える。

自分自身の軸を確認しながら、長いスパンの中の今という時間や、時代とハーモニーを奏でる様に作る服。
ぼんやりとしていたイメージや形がどんどんはっきりとして来て、ある時ぴたりと一本のラインになる。
そうして生まれて来たものは、なるべくしてなった確信に満ちていて、感動が生まれるのだという。
創造の核がしっかりとしたものには力がある。

その力というのは、自然の中の軽やかな風のような力。
その服を着て、外に出て、風に吹かれて歩きたくなるような、進行させる力。
そんな風なら、いつでも吹いていて欲しい。

NO BORDER, GOOD SENSE

NO BORDER , GOOD SENSE

5月11日(金)から10日間の企画展のタイトル。
木工デザイナーの三谷龍二氏・陶作家の安藤雅信氏・ミナ ペルホネン デザイナーの皆川明氏の3人のコラボレーションによる初めての企画展。

NO BORDER, GOOD SENSE 仕事場を訪ねてⅠ 「静けさに耳を澄ます」陶作家 安藤雅信

「NO BORDER, GOOD SENSE」仕事場を訪ねてⅡ 「大人の愉しみ」

この企画展は、皆川さんと2回目に会った時に、「安藤さん、三谷さんと、ミナ ペルホネンのコラボ展を沖縄でやってみませんか?」と提案してもらったのがきっかけで開催することになった。
何度か3人でコラボ展をやったことがあるのだと思っていたら、後で三谷さんに尋ねてみたら初めてだということが分かり驚いた。
しかもその時、後の二人はそのことを全く知らされてもいなかったという。

ゆっくりと言葉を選びながら話す人だが、直感が働いた時の行動と決断は早いようだ。

皆川さんは、安藤雅信さんや、三谷龍二さんの仕事ぶりをみていて、いつか一緒に仕事をしてみたいと思っていたという。
この三人の共通点は、自分の感覚に根ざしているという事。
自分の感覚に耳を澄まして、あらゆる可能性の中の明確な一本のラインを見つけ、ものづくりをしているという事。

その三人が、お互いの境界線を越えてものづくりをした今回の企画展で一体どのような世界に触れることが出来るのか。
私もとても楽しみだ。

元々オープンで、いいと感じるものをどんどん取り入れながら、独自の文化を作って来た沖縄の文化。
その沖縄でこのような企画展を開催出来る事に、必然性と大きな喜びを感じています。
みなさんもShoka:でこの交流を楽しんでください。

*4月7日に発売の文化出版社「ミセス 5月号」に今回の企画展とShoka:のことが載っています。
よかったら読んでみてください。

NO BORDER, GOOD SENSE

皆川明 ミナ ペルホネン デザイナー

1995年に自身のファッションブランド「minä(2003年よりminä perhonen)」を設立。オリジナルデザインの生地による服作りを進め、国内外の生地産地と連携して素材や技術の開発に注力する。デンマーク kvadrat社、英リバティ社をはじめとするテキスタイルメーカーにもデザインを提供。国内外で様々な展覧会が開催されている。2011年には2012年5月にオープンする東京スカイツリーの制服も手がけ話題となる。

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直近のShoka:でのイベント情報

NO BORDER, GOOD SENSE

「2年ぶりですね mon Sakata展」

4月20日(金)~29日(日)
初日には坂田敏子さん在廊予定
12:30~19:00
※初日はトークイベントを開催のため、18:00までの営業となります。

素材を手でしっかりと味わってから作られるmon Sakataの服。
逆さまにしたり、重ねたり、自由な着こなしが自分流に楽しめる。
洗ってくたくたになってからがまた気持ちがいい。
自由な発想、自由な着こなし。
ニットは8年前に買って、一番のお気に入りの麻のニットを
坂田さんがリバイバルで作ってくれました。
本当にいい形です!
ちなみに上の写真のパンツは「gagaパンツ」という名前だそうです。
2年ぶりのmon Sakataが楽しみです。

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「2年ぶりですね mon Sakata展」にあわせ、坂田敏子さんのトークイベントを開催します

「手の力 感覚を立体に」

4月20日(金)18:00~19:30まで 完全予約制 参加費300円(送迎代のみ)
(初日のみShoka:はトークイベントのため18:00にてクローズいたします)

坂田敏子さんのデザインは触感から始まります。
素材を触って、手と目で存分に味わってからその素材がどのような形になるといいのか、どんな風に着たいか、をイメージします。
自分の感覚を頼りにして何かをする事は、回り道のようだけれど実は自分に合った土台がしっかりと作れる確かなステップだと思います。
最初にマニュアルがあるのではなくて、自分で自分の中にある形を探り出してゆく。
こんなふうがいいよ、と提案されてみんなが鵜呑みにしていた様々な型が崩れてゆくことが多くなった今、自分の感覚を大事にし育ててゆく事はとても大切だと感じています。
目に見えるものを作る時にも、方法や仕組みなどの見えないことを作る時、そのどちらにも自分の感覚をONにして取り組むという事はとても大切なことだと思います。

今回田原は、感覚的でとてもユニークな坂田さんからそんな話しを聴いてみたいと思っています。
いつも予想外の反応が返ってくる坂田さんから、どんな応えが返ってくるのかとても楽しみです。

どんなお仕事をされている方でも、とても楽しく参加出来ると思います。

なお今回から駐車場からShoka:までの送迎を業者さんへ頼む事にしました。
代行に押されながらもがんばっている、地元のタクシー屋さんへ依頼しようと思っています。
なのでみなさまから300円ずつを参加費として頂戴する運びとなりました。
どうぞよろしくお願いします。
地元の仕事人も応援したいと思います。

では、Shoka:にてお会いしましょう。

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